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東京地方裁判所 昭和27年(ワ)8879号 判決 1955年6月27日

原告 日本国民救援会新潟県本部

被告 国

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は原告に対して金一四万円及びこれに対する昭和二六年五月三〇日より本判決執行ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求の原因として、かつ被告の主張に対して、次のとおり述べた。

原告は、訴外在日朝鮮人連盟新潟県本部(以下単に朝連と称する)に対して、昭和二三年一一月二〇日貸付けた債権金一〇万円及び朝連名義の電話加入権新潟局四二一九番の買受代金四万円の返還債権を有する。右四万円の債権は、原告が朝連から右電話加入権を譲り受け、その代金として金四万円を朝連に支払つたが、右電話加入権の登録を原告名義に変更しないうちに、朝連が昭和二四年四月四日政令第六四号団体等規正令により同年九月八日解散団体に指定され右電話加入権譲渡処分が昭和二三年八月一九日公布政令第二三八号「解散団体の財産の管理及び処分等に関する政令」第二条第一項本文該当の処分として無効とされたため、生じた前記買受代金の返還債権である。かように朝連が解散団体に指定され、同令第三条により、その財産は国庫に帰属するものとされたので、原告は同令第一五条に基き同条所定の期間内に解散団体たる朝連の債権者として、被告国の代表者たる法務総裁に前記債権合計一四万円を届け出たのである。そして、右申出の結果、原告の朝連に対する前記債権が、被告国に対する債権として、法律的に移転し、被告国は原告に対し朝連の原告に対する右一四万円の債務を支払うべき責を負うに至つたのである。

この点につき、なお、原告の見解を詳説する。原告は前記政令第三条により解散団体の債務が被告国に承継されると主張するものではない。同令第一五条に基き、解散団体に対し債権を有する者は、法務総裁にその債権を申出ることによつて、被告国から当然その支払を受けることができる、と主張するものである。蓋し、同条は、右第三条の規定により解散団体の財産が没収され、国庫に帰属する結果、解散団体に対する善意の第三者が、その権利を不当に侵害されないように、その保護を計つた規定に外ならぬからである。この点につき、被告は、「法務総裁の自由裁量により、解散団体に対する債権の全部または一部を支払うべきか否か決定される。」と主張するけれども、かかる見解は、同令第一五条の趣旨に反し、採るに足らない。法務総裁は、同条に基く申出を受けた債務の支払を最終的に拒否する権限をもたない。単に一時右支払を拒む権限をもつにすぎない。これは右規定が法律ではなく、単なる政令であり、その決定が右政令に基く行政処分であることなどからも窺知されるのみならず、法務総裁が同令第一四条により一方的になんらの証拠及び根拠を示すことなく、単に債務を否認する一事により、一旦適法に有する同令第一五条の申出による債権を消滅させるが如きは、法体系上絶対に許されぬことと解すべきだからである。

以上の次第で、原告は被告に対して前記申出後債権金一四万円及び既に履行期の到来したあとである昭和二六年五月三〇日(被告が原告に右一四万円の支払不承認決定をし、その通知をした日)より本判決執行ずみに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

このように述べ、被告の答弁にこたえ、次のとおり主張した。

被告主張事実中、法務総裁が、昭和二六年五月三〇日「解散団体財産売却理事会理事長」名義をもつて、原告が被告に対して申し出た前記一四万円の債権は、被告国においてこれを支払うべき義務なきものと認め、支払不承認の決定をし、その旨原告に通知のあつたことは認める。その他の事実はすべて争う。

法務総裁が、原告に対してした前記申出債権を最終的に拒否する趣旨の支払不承認決定は、日本国憲法第二九条ないし民法第九〇条等の規定に違反する無効な処分である。蓋し、原告が朝連に対して有する前記債権は、原告の法務総裁に対する前記政令第一五条による右債権の申出それ自体によつて、当然被告国に対して法律的に移転すべきものである。然るに法務総裁が、自由裁量により、なんらの根拠及び証拠を挙げることなく、前記支払不承認決定をするが如きは、明らかに憲法第二九条により保障された原告の財産権を不当に侵害する違憲行為であり、無効といわねばならぬ。またかりに右決定が合憲であり、正当であると認められるならば、国民は解散団体に指定されるおそれのある団体と取引をなし得ぬこととなり、かつ如何なる団体が右指定を受けるかは一般に予見し得ないことがらであるから、取引の安全は著るしく阻害されるであろう。従つて、かかる法務総裁の支払不承認決定は法律上到底許されぬ権利の濫用行為であり、無効というべきである。

なお、被告は、「解散団体の指定並びにその財産の処理に関するあらゆる措置は、連合国最高司令官の指令に基き行われたもので、その当否は日本国の裁判権の範囲外に属するから、法務総裁の前記支払不承認決定をもつて、違憲であるとし、その効力を否定することは許されない。」と主張するけれども、右主張は連合国による日本国占領が間接占領方式をとつていた点からみて失当であるばかりでなく、講和条約発効後の今日到底採用に価しない。

従つて、法務総裁の原告に対する右申出債権一四万円の支払不承認決定は無効と断ずるほかなく、被告はさきに述べたとおり右一四万円を支払うべき義務がある。

以上のとおり述べた。<立証省略>

被告指定代理人は、主文第一項と同旨の判決を求め、答弁として原告の主張事実中、朝連が原告主張の如く昭和二四年政令第六四号団体等規正令により解散団体に指定されたこと、原告が昭和二三年政令第二三八号「解散団体の財産の管理及び処分等に関する政令」第一五条の規定に従つて、原告主張の如く法務総裁にその主張の債権の申出をしたことは、いずれも認める。その他の事実は争う。このように述べ、次のとおり主張した。

解散団体に指定された団体の財産の管理及び処分については前記政令が制定施行され、これに則り処理されることとなり、右解散団体の債務の支払に関する事務は、同政令施行規則(昭和二三年法務庁令第五五号)第一六条の規定により法務総裁から解散団体売却理事会に委任され同理事会が行うこととなつた。

ところで同政令第一五条は「解散団体に対し債権を有する者で前条の規定によりその支払を受けようとするものは、所定期間内に、法務総裁にその債権を申し出でなければならない。」旨規定し、原告もまた右手続を履践したのであるが、同令第一四条によれば、法務総裁は第一五条の規定による申出を受けた債務についてその全部または一部を支払うべきか否かを決定することができ、その全部または一部を支払うべきものと決定された債務についてのみ法務総裁は右支払をなすものと定めてある。換言すれば、第一四条の規定の趣旨は、解散団体に対する債権は、法務総裁(解散団体売却理事会)の審理及び調査によつて、信用すべきものであるか否か、真実であるか否かが判定され、支払の承認または不承認の決定がなされるもので、この決定は法務総裁の自由裁量に属するものと解すべきである。被告国が解散団体の債務を承継しない限り、この決定を自由裁量処分と解すべきことは当然である。

法務総裁(解散団体売却理事会)は、原告の前記債権の申出に対し、審査した結果、解散団体たる朝連に対して、原告の債権が真実存在していたことを確認し得る証拠が不十分であつたので、右債権は形式的には債権の形をとるも、実質的には返還の義務なき債権であると判断したうえ、同令第一四条に基き右申出債権一四万円の支払を不承認と決定し、昭和二六年五月三〇日附「解散団体売却理事会理事長」名義をもつてこの旨を原告に通知したのである。かりに原告が解散団体に対し、真実その主張の如き債権を有したとしても法務総裁が支払を承認しない限り、被告国は解散団体の債務を支払う義務を負うものではない。

なお、解散団体の指定並びにその財産の処理に関するすべての措置は、連合軍最高司令官の指令により、日本国政府が同司令官のみに責任を負い、他のすべての国家機関から何の拘束をも受けない権力行使方式によつて行つたもので(このことは既に公知の事実である)、その決定の当否は司法裁判所の裁判権の範囲外に属するものである。

従つて、原告は「真実朝連に対し債権を有しているにもかかわらず、その支払の不承認をした決定は、個人の財産権を侵害するものとして、憲法第二九条に違反し、無効である。」と主張するけれども、右決定が解散団体の財産の処理に関するものである以上、右決定は占領下においては日本国憲法にかかわりなくその効力を有しその効力の当否を争う余地は存しないものというべきであるから、これをもつて憲法に違反すると論断することはできない。

以上のとおり述べた。<立証省略>

理由

朝連が原告主張の如く昭和二四年政令第六四号団体等規正令によつて解散団体に指定されたこと、原告が昭和二三年政令第二三八号「解散団体の財産の管理及び処分等に関する政令」第一五条の規定に従つて同条所定の期間内に法務総裁に原告主張の債権一四万円を申し出たこと、法務総裁が、昭和二六年五月三〇日解散団体財産売却理事会理事長名義をもつて、原告申出の右債権につき支払不承認の決定をし、その旨原告に通知したことはいずれも当事者間に争いがない。(解散団体財産売却理事会は、前記政令施行規則第一六条により、法務総裁から解散団体の債務の支払に関する事務を委任されて行うものとされた。)

原告は、「同政令第一五条の規定に従い、解散団体たる朝連に債権を有する者として法務総裁にその債権を申し出ることにより、原告の朝連に対する債権は被告国に対して法律的移転の効果を生ずる。」と主張するので、この点について、まず考える。

おもうに、個人(自然人)の債権債務は、原則としてその死亡により相続人によつて承継されるけれども、団体(法人格の有無を問わない)の債権債務は、法令上もしくは契約上別段の定めなき限り、当該団体の解散によつて開始される清算手続によつて処理されるものと解すべきところ、解散団体(団体等規正令第四条の規定により解散した団体、以下同じ)の解散によつて開始される清算手続は前記「解散団体の財産の管理及び処分等に関する政令」の規定するところであるから、解散団体に対する債権はこれらの規定に従つてのみ、その支払を受け得るにすぎないものといわねばならない。そして解散団体の財産の帰属に関しては、前記政令第三条が「解散団体の動産、不動産、債権その他の財産は、国庫に帰属し、これを目的とする留置権、先取特権、質権及び抵当権は消滅する。」と規定しているが、ここにいう財産とは、同条後段の「これを目的とする担保物権は消滅する。」旨の文言に徴すれば、積極財産のみを意味するのであつて、右規定が解散団体の消極財産(債務)も国においてこれを承継する法意を包含するものでないことは明白である。さらに前記「解散団体の財産の管理及び処分等に関する政令」を精査してみても、解散団体の債務を承継する趣旨の規定はこれを見出すことはできない。すなわち、同令第一五条第一項は、「解散団体に対し債権を有する者、解散団体の財産で担保される債権を有する者または解散団体の財産に関し生じた債権を有する者で前条の規定により支払を受けようとする者は、所定期間内に、法務総裁にその債権を申し出なければならない。」旨規定し、更に同令第一四条は「法務総裁は第一五条の規定による申出を受けた債務について、その全部または一部を支払うべきか否かを決定することができ、その全部または一部を支払うべきものと決定された債務(承認債務)について、所定の手続に従い、これを支払う。」旨規定しているが、成立に争いのない乙第一ないし第四号証(いずれも解散団体所属財産の処分に関する連合国最高司令官の指令)を考えあわせると、前記政令第一四条の法意は、法務総裁は、解散団体に対し債権を有する者から同令第一五条による申出を受けた債権につき、右債権の成立の事情、内容その他諸種の状況を審査したうえ、その裁量に基き、債権の全部または一部を支払うべきか否かを決定することができる趣旨と解すべく、解散団体に対する債権者は、その債権の申出それ自体をもつて、直ちに被告国に対して、その債権を主張し得るものではなく、法務総裁の支払承認決定があつて、始めて被告国に対して、その承認された額の限度において、右申出債権の全額または一部の額に相当する支払を請求し得ることとなり、一方被告国は、法務総裁の右支払承認決定によつて、解散団体の債務を支払うべき責任を負担するに至るものと解すべきである。すなわち、法務総裁の行う支払承認決定なる行政処分は、その性質上、私法上の権利、義務を発生、変更させるいわゆる形成処分に属するものというべく、同令第一五条による債権の申出それ自体は、右支払承認決定の形成的法律効果の発生に向けられた、前提たる行為として、理解されなくてはならない。

原告は、これに対して、「同令第一五条は、同令第三条の規定により、解散団体の財産が没収され、国庫に帰属せしめられる結果、解散団体の債権者たる善意の第三者の権利が不当に侵害されぬように、その保護を計つた規定である。従つて、同令第一五条により、解散団体に対して債権を申し出ることにより、右申出それ自体の独立した法律効果として、当然被告国に対してその支払を求めることができる。法務総裁は、同条の規定による申出を受けた債務の支払を一時拒否し得るにすぎず、最終的にこれを拒否することは、日本国の法体系上絶対に許されない。」と主張する。しかしながら、さきに説明したとおり、同令第一四条は、明らかに法務総裁が、同令第一五条による申出債権について、その裁量により右債権額の全部または一部を支払うべきか否かを決定する、との法意であり、この処分が法律上形成的効果を有するのであつて、右債権の申出それ自体は右効果発生の前提たる公法行為にすぎないものと解すべきであるから、原告の主張する、「解散団体の債権者は、同令第一五条により、法務総裁にその債権を申し出ることそれ自体の独立した法律効果として、当然被告国から右申出債権の支払を求め得る。」という見解は、失当であるといわねばならぬ。従つて、もし原告が前記政令自体もしくは同令第一四条の規定の違憲であり、無効であることを主張するならば格別、かゝる主張をすることなく、同令第一四条の合憲性を前提としながら、同条の趣旨に全く反する前記主張をすることは、是認しがたいところであつて、さきに述べたとおり、その主張自体失当であるといわなくてはならない。(なお、原告が右政令全体または同令第一四条の規定自体の違憲である点を主張するものでないことは、弁論の全趣旨からみて明らかである。)

つぎに、原告は「法務総裁が原告申出の債権の支払を最終的に拒否する支払不承認の決定をしたとしても、かかる決定は、日本国憲法第二九条ないし民法第九〇条等に違反し、当然無効である。従つて、原告が解散団体たる朝連に対して有する金一四万円の債権は消滅すべきいわれはない。」と主張するので、この点につき判断する。

まず、前記政令の諸規定からみて、解散団体に対して債権を有する者が、被告国からその支払を受けるためには、法務総裁の支払承認決定なる行政処分を必要とし、右処分は、いわゆる形成処分に属する、と解すべきことは、さきに述べたとおりである。

ところで、相互に抑制して相侵さざる三権分立の原則を採用する日本国憲法のもとにおいて、裁判所は、行政庁の処分が違法であると認めた場合には、当該処分の取消または無効を宣言し得るに止まり、法令上別段の定めある場合の外、裁判所自らその行政処分自体またはこれに代る行為をすることは行政庁の行政作用の発動を不当に侵害することとなるので、許されない、と解すべきである。

従つて、本件において、原告の同令第一五条による申出債権金一四万円に対し、法務総裁の支払承認決定がなされていない以上、たとえ、講和条約発効後においては、原告主張のように法務総裁の行つた本件支払不承認の決定が憲法に違反し、あるいは法律に背反する行為であつて、当然無効であると断じ得るとしても(講和条約発効前においては、右法務総裁の支払承認決定の当否は日本の司法裁判所の裁判権の範囲外に属していたことは、被告の指摘するとおりである。昭和二五年オ第一四七号最高裁判所大法廷判決参照)、さきに説示したとおり、裁判所は法令上別段の定めなき限り、処分庁に代つて積極的に右支払承認決定なる行政処分をなし得ないのであるから、結局原告は解散団体たる朝連に対する金一四万円の債権を、被告国に対して請求することはできない、といわねばならない。

従つて、法務総裁の原告に対してした本件支払不承認決定の有効無効について、更に立ち入つて審理するまでもなく、右処分の当然無効であることを前提とする原告の本訴請求は、右に述べたように、その主張自体失当である。といわなくてはならない。

以上の理由から原告の本訴請求は、その他の点について判断するまでもなく失当であることが明らかであるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 満田文彦 池野仁二 粕谷俊治)

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